「やりぬく力」を高める運動の効果。運動は自己信頼につながる
自身にとって「希望」とは何か、と聞かれたら、あなたは何と答えますか?
医療現場での希望の力が及ぼす治癒力についての著書を持つ、ハーバード大学医学部のジェローム・グループマン博士は、その著書において
希望とは心の眼で、より良い未来へとつづく道を見るときに経験する高揚感
と述べています。今回の記事では
- 希望が持つ力
- 行動が自己信頼を生み、自己信頼が希望につながること
についてお伝えします。
希望を生むトレーニングジム
バージニア州にあるフィットネスジム「DPIアダプティブ・フィットネス」は、体に障害のある人のトレーニングを専門とするジムです。
ジムに沿って立つ巨大な壁には、やる気が出るメッセージが所狭しと掲載されています。初めてジムを訪れた人はきっとその熱気に圧倒されることでしょう。
このジムでは、利用者がそれぞれ1回や2回では達成することが難しい、やりがいのある目標を設定し、達成できた時には自分の名前とやる気が出る言葉をその壁に掲載してもらいます。利用者は目標達成に向かって、少しずつできることを増やしていきます。
両脚の感覚が麻痺し、ジムを訪れるまではやっとつま先を上げられるほどだった女性は、現在では58kgもの重りを持ち上げることができるようになりました。彼女は自分で体を動かし、コントロールできるんだと思えたことで、心を病まずにすんだと語っています。
周りが目標を達成したという希望の証の壁の存在、自分で体を動かすことで少しずつできることを増やし、自己信頼を高めていくジムの方針は、利用者が前に進む大きな力、希望になっていると言えるでしょう。
「やりぬく力」が高い人は脳の前頭葉が発達している
2020年4月に東京大学大学院総合文化研究科は健康な人65名に同じパズルを解いてもらい、最後までやり抜けた約半数(65人中34人)と、途中であきらめた人の脳を比較する研究実験を行ないました。
その結果、やり抜いた人では、脳の前頭葉にある前頭極があきらめた人より発達していることが明らかになりました。
また、脳の状態からやり抜く力が低いと予測された人であっても、目標を細分化して小さい目標ごとに達成感が得られるプログラムを行なうと、やり抜くことができたのです。
このプログラムに取り組んだ人は、通常のプログラムに取り組んだ人と比べて、より明らかな前頭極構造の変化を示していました。
運動が前頭極の代謝を高める
さらに、2012年に筑波大学が行なった研究調査では、高齢者に中強度の短時間の運動を行なってもらったあとでは安静時と比較し、認知機能が向上し、右の前頭極の活動が有意に高まっていることが明らかになりました。
運動や体を動かすことは、医学的にも目標達成に向けた行動に良い影響を及ぼすということが言えます。
運動や体を動かし行動することで、小さな目標を達成することは自信や自己信頼につながります。
自己を信頼できるということは、自分で困難を乗り越えられる、より高い目標の達成や実現を信じることができる、希望のある人生につながっていくのです。
参考文献:ケリー・マクゴニガル「スタンフォード式 人生を変える運動の科学」 大和書房,2020年,p.190-205
東京大学 大学院総合文化研究科「目標達成までの『やり抜く力』に関わる大脳前頭極の可塑性」COMMUNICATIONS BIOLOGY,2020
参考:筑波大学 大学院人間総合科学研究科「運動は脳の代謝機能を高める」 2012