TOP

運動のモチベーションを高める「プレジャー・グロス」ってなに?

6月のはじめ、新型コロナウイルスの収束を願い、全国の花火製造業者162社が花火を一斉に打ち上げる「Cheer up! 花火プロジェクト」が行なわれました。

花火業者さんたちの粋なサプライズに元気づけられ、温かい気持ちになった方も多かったのではないでしょうか。

花火の美しさはもちろんですが、花火が夏のわくわくした気持ちや友達や恋人、家族と一緒に過ごしたうれしく楽しい感覚を呼び起こしてくれたのかもしれませんね。

直接関係ないものー音や匂いや風景などを見たり感じたりすると、なぜかわくわくしたりドキドキしたり幸せな気持ちになったりすることがあります。

これらは、私たちの脳が引き起こしている反応です。この素晴らしい反応は、運動や体を動かすことでも見られることが分かっています。

この記事では、運動をしている多くの人が経験したことがあり、これから運動を始める人もいずれ体験するであろう「条件刺激と運動」の関係についてご紹介します。

 

プレジャー・グロス

きわめて楽しい状況で、同じ匂いや音、味や風景などを繰り返して経験すると、それらが心地の良い記憶として私たちにインプットされます。

たとえば、特定の道を通るとなぜか懐かしいような温かい気持ちになることがあり、よくよく思い出してみると、子どもの頃大好きだった友だちの家に行く時の道にとても似ていたというケースや、幼い頃自宅で親の手作りのお菓子を毎日食べていて、今でもミキサーの回転する音を聞くと自然に幸せな気持ちになるといったケースもその一つと言えます。

こうした反応は、実はさまざまな依存症においてもよく見られることです。

自己破壊的な衝動性や程度こそまったく異なりますが、麻薬の道具を見ただけでドラッグを使用したい衝動に駆られたり、パチンコ店からもれるアナウンスや機械の音を聞くとついつい店に入り打つのをやめられなくなってしまうことが良い例でしょう。

これらの快感を呼び起こす条件刺激を科学者たちは「プレジャー・グロス」と呼んでいます。

それ自体は快楽ではない感覚刺激は次第にプレジャー・グロスとなり、脳内にエンドルフィンとドーパミンの大量分泌を引き起こすのです。

 

パブロフの犬

プレジャー・グロスの存在を裏付ける実験で有名なものに、パブロフの犬と呼ばれるものがあります。

犬にエサを与える際、毎回同じベルを鳴らすと、次第にベルの音を聞いただけで犬がよだれをたらしてしまうというものです。

この実験では、ベルの音がプレジャー・グロスとなり、犬がエサを食べた時と同様の反応が脳内で起こっているのです。

 

条件刺激が運動のモチベーションをより高める

ありふれた音、匂い、風景がプレジャー・グロスとなる時、私たちは運動によって得られた自信や人間関係、自然の素晴らしさや人の暖かさなどを改めて実感します。

グラウンドに舞い上がる土埃や丸めたヨガマットを床に広げる時の音、ランニングシューズの紐を結ぶ時、運動を始めなければ沸き起こることのなかった感覚をこれらによって感じる時、体を動かす喜びは深まり、好きな運動への思い、モチベーションはさらに強まっていくのです。

 

参考文献:ケリー・マクゴニガル「スタンフォード式 人生を変える運動の科学」 大和書房,2020年,p.72-78

東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター「ドーパミンの脳内報酬作用機構を解明〜依存症など精神疾患の理解・治療へ前進〜」 サイエンス,345巻,2014,p.1616-1620