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エンドルフィンだけじゃない! ランナーズハイを起こす脳内物質のひみつ

ここ数年の間に健康のためや趣味の一つとしてジョギングをする人が増えてきました。最近では街中を走る市民ランナーもめずらしくなくなりましたね。

国民のスポーツライフを豊かにすることを目的に研究調査や人材育成などを行っている公益財団法人笹川スポーツ財団の調査報告によると、国内で週1回以上ジョギングを行っている人の数は2008年では352万人、2018年では550万人と大きく増大していることが分かりました。

2007年に東京マラソンが始まり、TV中継が行われたことや2008年からメタボリックシンドローム、生活習慣病予防のための特定検診・特定保健指導が始まったことがマラソン人口の拡大につながったと考えられています。

ジョギングをしている人にその魅力をたずねるとよく聞かれるのが、きつく苦しい状態が爽快感や快感に変わり、幸福感さえ得られるという“ランナーズハイ”です。

運動が苦手な人をも走ることを好きにさせるというランナーズハイとは、いったいどんなものなのでしょうか?

この記事では、ランナーズハイとそれを引き起こす脳内物質の秘密についてお伝えしていきます。

 

ランナーズハイを引き起こす内因性カンナビノイド

これまでランナーズハイは幸福感や高揚感につながる脳内物質エンドルフィンの作用により引き起こされると考えられてきました。

しかし近年では、エンドルフィンのほかにもう一つ、内因性カンナビノイドという脳内物質がランナーズハイに大きく関わっていることが分かってきています。

内因性カンナビノイドとは、マリファナの有効成分カンナビノイドに類似した作用を持つ脳内物質です。

2012年にアリゾナ大学人類学部のデビッドA.ライヒレン博士らは、人と犬、フェレットに30分間の有酸素運動を行ってもらい、運動後の内因性カンナビノイドの血中濃度を測定する研究調査を行いました。

その結果、フェレットでは血中濃度に変化はなかったものの、人、犬では有酸素運動後の内因性カンナビノイドの血中濃度の顕著な上昇が見られ、さらに人への運動後の精神状態のアンケートで幸福感、高揚感を感じていることが明らかになりました。

 

ランナーズハイは身体を動かすことで得られる報酬

デビッドA.ライヒレンらの研究結果では、人や犬では内因性カンナビノイドの上昇が見られ、フェレットでは変化がありませんでした。

フェレットはえさとして、巣穴で眠る小さな哺乳動物や、ヒキガエル、野鳥の卵など動かないものや動作の遅いものを捕食します。

しかし、原始、狩猟を行っていたヒトや、逃げる獲物を追って長距離を走る犬は食べ物を得るために持久性運動を行わなければなりませんでした。

ランナーズハイとは、食べ物を得るために長距離を走り、きつい持久性運動を続ける彼らがそれらを嫌にならないために備えた機能であり、身体を動かすことで得られる報酬と言えるかもしれません。

 

参考文献:ケリー・マクゴニガル「スタンフォード式 人生を変える運動の科学」 大和書房,2020年,p.31-42

デビッドA.ライヒレン「ランナーズハイに影響を与える、人間および食用哺乳類における運動誘発性エンドカンナビノイドシグナリング」 Journal of Experimental Biology,215,2012,p.1331-1336

★★★weara元担当のすずまりさんと、らいらさんの記事を「weara blog編集部」としてこちらのアカウントにまとめています。★★★